実射影空間 第一回

イントロダクション

$\mathbf{R}^{n+1}$ の原点を通る直線(1次元線形部分空間)の全体を実射影空間 $\mathbf{R}P^n$ と呼ぶ。
このシリーズでは、実射影空間に位相・距離・多様体・計量などの構造を入れて、幾何学的・解析的な性質を見ていく。

位相の入れ方

$\mathbf{R}P^n$ に位相を入れる方法を3種類紹介する。証明は省くが、これらはすべて同じ位相を定める。

なす角距離

$\mathbf{R}P^n$ の元同士は原点で交わる。そこで、$L_0,L_1 \in \mathbf{R}P^n$ のなす角を $d(L_0,L_1)$ で表すことにする。
この関数 $d \colon \mathbf{R}P^n \times \mathbf{R}P^n \to [0,\pi/2]$ は距離の公理を満たすため、これを用いて $\mathbf{R}P^n$ を距離空間とみなす。
特に、$\mathbf{R}P^n$ は距離空間なので Hausdorff 空間である。


$L_0$と$L_1$のなす角を距離$d(L_0,L_1)$とおく

線形空間から原点を抜いたものを実数倍の作用で割る

各 $L \in \mathbf{R}P^n$ は集合として、原点以外の点 $p \in L$ を固定することで $L = \text{\{ $rp \mid r \in \mathbf{R}$ \}}$ とできる。
従って、 $\mathbf{R}P^n$は$\mathbf{R}^{n+1}$ の $0$ でない元の全体 $\mathbf{R}^{n+1} \smallsetminus \text{\{$0$\}}$ から実数倍の差を除いた空間となる。

\[
\mathbf{R}P^n \cong (\mathbf{R}^{n+1} \smallsetminus \{ 0 \}) / \mathbf{R}^\times
\]

この同一視を用いて $\mathbf{R}P^n$ に商位相を入れることができる。
点 $x = (x_0,\dots,x_n) \in \mathbf{R}^{n+1} \smallsetminus \text{\{$0$\}}$ を含む同値類を $[x_0:\dots:x_n] \in \mathbf{R}P^n$ で表す。

直線の原点以外を同一視する

球面上の対蹠点を同一視する

$\mathbf{R}^{n+1}$ の原点を通る直線$L$は、単位球面 $S^n$ と必ず2つの交点を持ち、片方の交点はもう片方の交点の $-1$ 倍になっている。
従って、$\mathbf{R}P^n$ は $S^n$ から $\pm 1$ 倍の差を除いた空間となる。

\[
\mathbf{R}P^n \cong S^n / \{\pm 1\}
\]

この同一視を用いて $\mathbf{R}P^n$ に商位相を入れることができる。
特に、$S^n$ からの商位相であることから、 $\mathbf{R}P^n$ はコンパクト空間になる。


対蹠点を同一視する

可微分構造を入れる

$\mathbf{R}P^n$ に可微分構造を入れる方法を2種類紹介する。これらはいずれも同じ可微分構造を定める。

球面の多様体構造から誘導する

群作用 $S^n \curvearrowleft \text{\{$\pm 1$\}}$ はコンパクト群からの固定点自由で滑らかな作用であるから、$\mathbf{R}P^n$は多様体になることがわかる。

同次座標系

各 $k = 0,\dots,n$ に対して開集合

\[
U_k := \{ [x_0 : \dots : x_n] \in \mathbf{R}P^n \mid x_k \neq 0 \}
\]

を定めて、写像 $\varphi_k \colon \mathbf{R}^n \to U_k$ を

\[
\varphi_k(x_0,\dots,x_{k-1},x_{k+1},\dots,x_n) = [x_0 : \dots : x_{k-1} : 1 : x_{k + 1} : \dots : x_n]
\]

で定める。このとき、これは同相写像になるので、$\varphi$ の逆写像 $u_k \colon U_k \to \mathbf{R}^n$ を定める。
このようにして定義される局所座標系 $\{ (U_k,u_k) \}_{k = 0}^n$ を $\mathbf{R}P^n$ の同次座標系と呼ぶ。


$n = 2$のときに$\varphi_2$は平面$x_2 = 1$への透視投影とみなせる

有理関数を用いて実射影空間上に写像を定める

$\mathbf{R}P^n \cong( \mathbf{R}^{n+1} \smallsetminus \text{\{$0$\}}) / \mathbf{R}^\times$ の同一視から、以下の定理が成り立つ。

定理(商空間の普遍性)
滑らかな関数 $f \colon \mathbf{R}^{n+1} \smallsetminus \text{\{$0$\}}\to \mathbf{R}$ が次式を満たすとする。
\[
f(rx) = f(x) \hspace{12pt} (x \in \mathbf{R}^{n+1} \smallsetminus \{0\}, r \in \mathbf{R}^\times)
\]
このとき、滑らかな関数 $\bar{f} \colon \mathbf{R}P^n \to \mathbf{R}$ が唯一つ存在して、次式が成り立つ。
\[
\bar{f}([x_0:\dots:x_n]) = f(x_0,\dots,x_n) \hspace{11pt} (x = (x_0,\dots,x_n) \in \mathbf{R}^{n+1} \smallsetminus \{0\})
\]

この定理を用いて、斉次多項式の有理関数によって $\mathbf{R}P^n$ 上の関数を構成することを考える。
斉次多項式とは、以下の多項式のように、各項の次数が一定の多項式である。
\[
x^2 + y^2, \hspace{12pt} x^3 + yz^2 \hspace{12pt} 3x^4 + 4y^2z^2 + 6yz^3
\]

次の命題が成り立つ。

命題(有理関数による射影空間上の関数の誘導)
$p,q$ は次数を同じくする $n+1$ 変数斉次多項式であり、$q(x) \neq 0 \hspace{5pt} (x \in \mathbf{R}^{n+1} \smallsetminus \text{\{$0$\}})$を満たすとする。このとき、
\[
f(x) := \frac{p(x)}{q(x)} \hspace{11pt} (x \in \mathbf{R}^{n+1} \smallsetminus \{0\})
\]
に対して滑らかな関数 $\bar{f} \colon \mathbf{R}P^n \to \mathbf{R}$ が唯一つ存在して、次式が成り立つ。
\[
\bar{f}([x_0:\dots:x_n]) = f(x_0,\dots,x_n) \hspace{11pt} (x = (x_0,\dots,x_n) \in \mathbf{R}^{n+1} \smallsetminus \{0\})
\]

証明

斉次多項式 $p$ は
\[
p(rx) = r^{\deg p} p(x) \hspace{12pt} (x \in \mathbf{R}^{n+1}, r \in \mathbf{R})
\]
を満たすので、
\[
f(rx) = f(x) \hspace{11pt} (x \in \mathbf{R}^{n+1} \smallsetminus \{0\}, r \in \mathbf{R}^\times)
\]
が容易にわかる。あとは商空間の普遍性を適用すればよい。 □


3変数の4次斉次多項式の比によって定義される
\[
f(x,y,z) = \frac{x^4 + y^3z}{x^4 + y^4 + z^4}
\]
は $\mathbf{R}P^2$ 上の関数を誘導する。

射影平面の4次元線形空間への埋め込み

有理式を用いた $\mathbf{R}P^n$ 上の関数の例として、射影平面 $\mathbf{R}P^2$ の $\mathbf{R}^4$ への埋め込みを構成する。
これは、3次元空間の直線の全体が4個のパラメータを用いてダブり無くパラメトライズできることを表している。

命題
$\mathbf{R}^3$ 上の有理関数として以下の4つの関数を考える。

  •  $\displaystyle f_0(x,y,z) = \frac{yz}{x^2 + y^2 + z^2}$
  •  $\displaystyle f_1(x,y,z) = \frac{xz}{x^2 + y^2 + z^2}$
  •  $\displaystyle f_2(x,y,z) = \frac{xy}{x^2 + y^2 + z^2}$
  •  $\displaystyle f_3(x,y,z) = \frac{x^2 + 2y^2 + 3z^2}{x^2 + y^2 + z^2}$

このとき、$F = (\bar{f}_0,\bar{f}_1,\bar{f}_2,\bar{f}_3) \colon \mathbf{R}P^2 \to \mathbf{R}^4$ は埋め込みである。

これの証明には煩雑な計算が必要なので、ここでは省略する。参考文献に挙げた Spivak の本に詳細が載っている。

参考文献

  • 松本幸夫、「多様体の基礎」、東京大学出版会
  •  M. Spivak, “A Comprehensive Introduction to Differential Geometry,” vol. I, Publish orPerish, Inc. Berkeley